Fernweh

homeward bound

日本で無料 WiFi が普及しないたったひとつの理由


写真はラオスのなにもない村。でも野良WiFiは飛んでた。

日本では無料公衆無線LANが非常に少ない

海外のカフェやホテルでは無料で WiFi インターネットアクセスが提供されていることが多い。しかし今どき、日本ではあまり普及していない。海外旅行者などは口を揃えて「海外じゃ無料、日本は遅れている」というが、日本のキャリアはケチなのか?

回線が犯罪に使われるとか、何かあったらかなり面倒なことになるから

日本の WiFi インターネットアクセスが有料なのは、本人認証のシステムに必要なコストが大きいからで、回線を無料で提供しないカフェやキャリアがケチなのではない。ユーザから見れば同じことだが、インターネット回線自体よりも認証のシステムにコストがかかりすぎるのである。

無料のインターネットアクセス提供でも特定電気通信役務提供者となるので*1プロバイダ責任制限法など権利侵害情報の対応では民事*2、警察の犯罪捜査では刑事手続による発信者情報開示請求が行われる。ここで身元が特定できないアクセスを受け入れる、ログが取れないなど設備上の制限を含む発信者情報開示請求に対応しないことが、故意または重過失と見なされる可能性が残る*3 *4

公衆WiFi提供者への開示請求は、想像以上に頻繁にある

たとえば、日本国内である店舗・サービスをチェーン展開している企業が提供している無料WiFiに関して、1-2ヶ月に一度ほど開示請求があるという。

実際に、ログが残っていない等での開示請求不能ですぐに無料公衆無線LAN提供者自身が追求される可能性は低いのかもしれない。が、少なくとも面倒なことにはなる。ログがあればすぐ提出して済ませるところなのに。


PC遠隔操作マルウェアによる誤認逮捕事件では、IPアドレスを確証とした。現状、日本ではそういう捜査が行われる、ということである。

認証システムは安価な既製品がきわめて少ない

日本は無料 WiFi が少なすぎるとか、別の回線でメールアドレス登録しなきゃいけないのは鶏と卵問題だとか、故に日本は遅れているといわれるが、認証システムつきのWiFi機器は安価な汎用品が少なく、管理も簡単ではない。仮に回線コストだけで無料 WiFi を提供できるような状況なら、おそらくもっとたくさんの無料公衆無線LANが提供されているのではないかと思う。

たとえば喫茶店の個人経営者がインターネットアクセスを無料提供しようとしたとき、安心して導入できる安価なシステムがきわめて少ないのが問題である。

代表的なソリューション FREESPOT は接続性に問題があるように見受けられる。透過プロキシのようなものが入っているようで通信をいじっているように見える。問題が多い。たとえば、HTTP での接続は不安定、SMTP(Submission)で SSL(TLS)接続をするためネゴシエート中に STARTTLS コマンドを発行した瞬間にコネクションが切断されるなど。ログを採取し、不正な利用を防ぐために必要なことかもしれないが、不安定なため通常利用も支障がある状況で、あまり人気がない。

ハードウェアの話になるが、もしも、つながった端末の MACアドレスや Web の接続先をある程度長期間ロギング可能なルータや無線アクセスポイントが安価に販売されていたら、多少は状況がマシになるのかもしれない。また、以上の法的な項目に関しては、弁護士に相談したり都道府県警察本部のサイバー犯罪相談した結果をメモ書きしているだけで、私自身は法律の素人なため、間違いがあれば指摘していただきたく。


ちなみにアジアを旅行するとやたらと暗号化なしの野良 WiFi が飛んでいるが、彼らの回線が誰にでも使えるのは捜査なんてないから。これを「途上国は遅れている」と捉えるか、「そういう捜査なんてそもそも無理なんだし、彼らは遥か未来のサイバー世界に行っちゃってる」と捉えるか。


*1:不特定の者が公衆無線LANを用いて特定電気通信を行う場合、公衆無線LANは特定電気通信設備であり、特定電気通信設備を用いて特定電気通信役務を提供することになるので、特定電気通信役務提供者となる。*3も参照

*2:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律

*3:「経由プロバイダ事件」平成22年04月08日最高裁判所第一小法廷(平成21(受)1049)

*4:最高裁は賠償責任は否定したが発信者情報の開示をKDDIに求めている